天龍「オレと、提督の恋」前編




天龍「オレと、提督の恋」中編
272: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:07:11.82 ID:2a8bPRZVo
>>1です。
投稿再開させて頂きます。

273: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:21:04.59 ID:2a8bPRZVo
あれから、1週間。

提督解任のリミットである2週間のうち、半分が過ぎた。
オレたちは絶えず出撃を続け、まだ南西諸島の攻略を目指している。


あれだけのことがあったんだ。
そろそろ攻略できてもおかしくはない。

274: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:21:51.52 ID:2a8bPRZVo
「・・・と、思ったんだけどよ・・・」
「現実は厳しいわね~」


出撃と出撃の合間にこうして【間宮】で愚痴をこぼすのがおれたちの日課になってしまった。


「あと少しなんだけどね~」
「一体、何が足りないのでしょうか」
「やっぱ、夜戦・・・かなあ」


夕張、神通、川内が口々に意見を言う。

いつも五月蝿い夜戦バカが萎れていると調子が狂っちまうぜ。

今度ばかりは川内の意見も間違っちゃいないんだけどよ・・・。

275: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:22:19.07 ID:2a8bPRZVo
「夜戦までもつれこんでも、最後までトドメをさせねーんだよなあ」
「今開発中の兵装が完成すれば、少しは・・・」


う~ん、夕張の意見も正しいけどさ。
確信はそこにはない気がするんだ。


戦術とか兵装とかじゃない、もっと大切な何か。

それがオレたちには不足しているような、そんな気が。

276: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:23:20.24 ID:2a8bPRZVo
「では貴様らは、艦娘は一体何のために戦っているのだ?」

「・・・・・・・・・っ!」

あのクソヤローの言葉が再び胸を突き刺す。


「誇りもなく、信念もなく、理由もなく。ただ儂らが命じるままに戦い、敵を倒し沈んでいく」

ギリ・・・。
歯が軋む。


「それこそまさに、貴様ら艦娘がただの兵器である証拠ではないか。愚かなものよの!」


うっせえな、オレたちは兵器じゃねえ。
あの言葉が想像以上にオレを動揺させた。

戦う理由?
そんなの考えたこともないのに。

277: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:23:59.60 ID:2a8bPRZVo
隣に龍田がいて、仲間たちがいて、今は信じることができる提督もいる。
それで充分じゃないのか?

あんな奴の言うことを間に受けて落ち込むなんて馬鹿げてる、そうだろ、オレ。


「はぁ・・・」
「どうしたの~、天龍ちゃん」

いや、ちょっとよと言葉を濁すオレにまさかの追撃が来る。

278: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:24:39.81 ID:2a8bPRZVo
「んっふっふ~、分からないかなあ龍田さん。このため息はズバリ・・・」

「何何、夕張。なにか面白いこと~~~?」

「ね、姉さん・・・はしゃぎすぎです・・・」




「な、何だってんだよ夕張・・・」
やけに得意げだな、見透かされたか・・・?

身を乗り出す川内を神通が止めるのを見ながら、オレは不安を隠すように手元のコップを取って口をつける。

コーヒー・・・牛乳。なんだよ、甘党で悪いか?

279: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:25:52.84 ID:2a8bPRZVo
「ズバリ、恋の悩みね!」
「ブーーーーー!」

少し早いけれど、夕張はシャワーの時間の様だ。


「きゃ、汚い!何するのよ!」
「うるせえ、お前が変なこと口にするからだろーが!」


夕張の抗議は却下して、オレは声を張り上げた。
いきなり何言ってんだ、コイツは・・・!


280: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:26:20.64 ID:2a8bPRZVo
「恋~~!?」
「恋・・・ですか」
「恋、ねぇ~。うふふ」


他の奴らも三者三様の反応を見せて乗っかってきやがる。

・・・あ、これ龍田のスイッチ入ったな。

281: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:27:53.99 ID:2a8bPRZVo
「だって~、いきなり黙り込んだと思ったら思わせぶりなため息・・・これは恋以外ないでしょう。私が読んだ漫画にもそういうシーンあったし!」

現実と漫画を一緒にしてんじゃねーよ。

なんでコイツ、こんなに自信マンマンに漫画の知識を振りかざせるのか。
そういうのは戦隊ヒーローが実在してると思ってる暁たちだけで充分なんだ。

282: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:28:37.47 ID:2a8bPRZVo
「うふ、だって、天龍ちゃん。実際のところ、どうなの~?」

「ねえねえ、どうなのどうなの~、恋するってどんな気持ち、どんな気持ち?」


くっそ、完全にオレをおもちゃにする気だ。
一先ずこの空気を変えようと、神通に目配せする。

コイツはあまりはっちゃけるのが好きじゃないハズだからな。
適当に話題を逸らしてくれるだろう。

283: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:29:10.45 ID:2a8bPRZVo
・・・?

なんでその神通が、申し訳なさそうにこっちを見るんだ?



「・・・ごめんなさい、天龍さん・・・私も、聞いてみたい・・・です・・・」

ものすごく申し訳なさそうに、トドメを刺しやがった・・・。

284: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:29:39.76 ID:2a8bPRZVo
ったく。

どこをどう見ればこの天龍様が恋してるように見えるって?
冗談じゃないぜ。
心のどこか奥に隠した真実を見ないように、見ないようにしながらオレは答える。


「あのな、別にオレは提督のことなんかどーとも思っちゃいねーから・・・ん?」


その瞬間、龍田と川内と夕張がニタリと笑う。

完全にエモノを追い詰めた時の顔だ。

285: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:32:18.14 ID:2a8bPRZVo
「んっふっふ~、言ってしまいましたなあ天龍くん」

「何だよ夕張、気持ちわりぃな・・・」

「天龍ちゃん、まだ気づいてないみたい」

「いやあ~、恋する乙女は盲目ですってことだね!」


うんうん、と訳知り顔で腕を組み頷く川内。

・・・いつもより5割増でうざい。
やっぱ静かな方がいいや、コイツは。

286: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:33:04.74 ID:2a8bPRZVo
「なあ、オレ何か変なこと言ったか?」

そんなオレたちをみて困ったような、妙に納得したような薄笑いを浮かべている神通に質問してみた後で、オレは後悔することになる。

この、普段誰よりも冷静で常識をわきまえている様に見える軽巡洋艦を見誤っていたことに。



さっきオレが空気を変えようとした時にトドメをさしたのは、龍田でも川内でも夕張でもなく。
今も申し訳なさそうに口を開こうとしているコイツだったってことに。

オレは気づいていなかったのだから。

287: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:33:33.77 ID:2a8bPRZVo
「あのう、天龍さん・・・」
「何だよ、言いたいことがあったら言えよ」


「川内姉さんは、恋の相手が提督だなんて、一言も言ってませんよ?」


・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・あ。

288: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:35:36.20 ID:2a8bPRZVo
と、呟きが漏れ出そうになった口を慌てて抑える。
しまった、しまった、しまった。
なんで?


「い、いやだってほら。この鎮守府に男っていや提督しか・・・」
「ほう、だから恋愛相手は提督しかありえない、っと。言うね~!」
「・・・っ!」

このヤロー・・・。


混乱した頭を必死に覚ましながら、何とか気を落ち着けようと足掻くけど・・・。

289: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:36:51.05 ID:2a8bPRZVo
「天龍ちゃん、何か言い残すことは、ありますか~?」

「全く、昔からアンタはバカ正直ね」

「ねえねえ、もう正直に言って楽になりなよ!ねえねえねえったら!」



もうオレの喉笛まで噛みちぎってやがる・・・。

「川内姉さん、そんなに言ったらかわいそうです・・・」

「なによー、追い詰めたのは神通じゃない!」

「あぅ・・・天龍さん、ごめんなさい・・・正直に言いすぎました・・・」

290: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:37:43.83 ID:2a8bPRZVo
四面楚歌。

まあ、この場合の歌ってのは恋の歌なんだけどな。



・・・うわつまんねえ。

混乱のあまりどうしようもない冗談しか浮かんでこず、オレはこの場をごまかすことも出来やしない。

291: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:40:38.84 ID:2a8bPRZVo
・・・誤魔化す?
誤魔化すって、何をだよ?

・・・もう、分かってるくせに。
・・・怖いから、認めていないだけのくせに。


そんな風に自分と喧嘩しているオレをよそに、4人は会話を進めていく。

292: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:41:11.19 ID:2a8bPRZVo
「なーんだ、この間の川内の話しは本当だったんだ」
「『天龍が提督を押し倒し事件』ですか」
「なあにそれ、ネーミングセンスわる~い」


ああ、本当に最悪だよ。

でも、何か。何かこの場をやり過ごす話題はないか。

そんな、普段のオレからは想像もつかない弱気の発想。
言い訳とその場しのぎの言葉を探す情けねえ姿。

293: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:41:43.32 ID:2a8bPRZVo
「ええ~!?みんな信じてなかったの~!?最初から私言ってたもん!天龍と龍田が提督を押し倒してたって!」
「姉さんの場合、日頃の行いから仕方ないかと・・・」


オレと、龍田か・・・。
ああ、そうだ!

294: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:42:15.20 ID:2a8bPRZVo
「そういや、あの時執務室にいたのはオレと提督だけじゃねーんだぜ。龍田はどうなんだよ?」
「え、わたし~?」
「そういえばそうだよね、私龍田も提督の上にいたの見たもん!」


「何だか誤解を招く言い方ね・・・」
「姉さんは無邪気なだけですから・・・」

夕張と神通の反応には目もくれず、オレは一気に本丸へと突き進む。

295: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:42:55.80 ID:2a8bPRZVo
「オレばっかに喋らせておいて、まさか自分は黙ってますなんてことねーよな?」

「なんだか天龍ちゃんがこわいわ~」


ったりめーだ。オレを怒らせたら怖いってこと、思い知らせてやるぜ。

あとついでに、身代わりになってくれ。

296: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:43:29.14 ID:2a8bPRZVo
「で、どーなんだ。龍田は提督のこと、すすす・・・好きなの、か?」

ああくそ、肝心なところでどもっちまう!

「私?私はね~」

んー、と宙に視線をやりながら、人差し指を顎にあてる仕草が妙に色っぽい。
いつもの龍田ののんびりとした口調が、今はいつもよりも余計にゆっくりに感じた。


「好きかなあ、提督のこと~」
「なななん・・・マジでかあ!?」

297: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:43:58.08 ID:2a8bPRZVo
「うん、提督のこと、私好きよお。あと、天龍ちゃんと~、川内さんと夕張さんと。神通さんももちろん好きよ~?」

・・・なんだよ、そういうことかよ。

「オレが聞きたかったのはそういうことじゃなくってだなあ」

またもやしまった、と思ったのは、龍田の顔を見たから。

298: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:44:29.18 ID:2a8bPRZVo
「あら~、どういうことかしらあ。天龍ちゃんの聞きたい『好き』と、私の言った『好き』には、どういう違いがあるのかしら~?」


ああ、全く。
口喧嘩でこいつにゃ勝てやしない。


オレはがっくりと肩を落として、その後しばらく夕張たちの好きなようにされたのだった。

299: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 16:45:14.93 ID:2a8bPRZVo
続きはまたあとで。

301: ◆CWMtgKJRrk 2015/03/07(土) 22:02:53.93 ID:2a8bPRZVo
「戦う理由?」

ようやく話題が落ち着いて、オレはかねての心の引っ掛かりをみんなに打ち明けた。

「へえ、天龍。あんた結構真面目なことも考えたりするのね」

夕張が心底びっくりした、という感じ。

302: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:03:23.54 ID:2a8bPRZVo
「戦う理由?」

ようやく話題が落ち着いて、オレはかねての心の引っ掛かりをみんなに打ち明けた。

「へえ、天龍。あんた結構真面目なことも考えたりするのね」

夕張が心底びっくりした、という感じ。

303: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:03:53.14 ID:2a8bPRZVo
「っせーな、オレだってそういうことを考えたりするさ。みんなは、どうなんだよ」

「別に~、私は天龍ちゃんと、みんながいればそれでいいかしら~」

「私はどうだろ。工廠で開発していることの方が多いから、考えたことはないかな」


と、龍田と夕張。
ま、この二人はこんな感じだろうな。

304: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:04:21.24 ID:2a8bPRZVo
「私はやせ・・・」
「夜戦以外で頼む」
「ぶー!」


むくれる川内。
お前は何も考えてなさそうでいいなあ。


となると、参考になりそうなのは・・・。

305: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:04:48.27 ID:2a8bPRZVo
私は、と恐る恐るといった感じで神通が切り出す。


「兵器、でいいと思います。艦娘は、深海棲艦と戦うものです。

ふん、それで、とオレは先を促す。

それで終わりです、とは言わせねえ。

306: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:06:10.43 ID:2a8bPRZVo
「はい・・・。もちろん、私たちにも感情はあります。でも・・・私たちの本質は、兵器」

「提督の命令のもと敵を打ち倒し、力尽きたら沈んでいく・・・」

「それが、私たちなのだと思います」



「神通・・・」

川内が声をかけても無反応。

神通は結局、喋っているいる間も後もオレたちの方を見ようともしなかった。

まるで自分に言い聞かせるように語って。
小さく俯いてそれっきり。

307: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:06:45.63 ID:2a8bPRZVo
・・・気に食わねえな。

コイツは、まだあの時から立ち止まったまんま・・・一歩も進めないでいるのか。

情けねえ、情けねえ。


神通も、こいつを救えないオレも川内たちも。

だからかな、余計なことを言っちまった。

308: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:07:32.27 ID:2a8bPRZVo
「提督の命令の元、ね」
「何か、おかしいですか」

神通が顔を上げる。真っ直ぐにオレを見据えて。


天龍ちゃん、と小声で龍田が呼ぶ。

夕張が、川内がちょっと、とオレを止めようとする。
けれどもオレはあえて耳を貸さずに言葉を刃に変えて斬り付けた。



「そんなこと、ここにいる誰よりも思っちゃいないくせに?」

309: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:08:23.93 ID:2a8bPRZVo
ガチャン、と音がした。

神通が座っていた椅子を蹴って立ち上がった勢いで、テーブルに置いたカップたちが弾けたからだ。


それに合わせてオレも静かに立ち上がる。
目の前から手加減なく放たれる殺気を、真正面から受け止める。



「どういう、意味ですか」

神通から放たれる、深い海の底から来るような、冷えた声。
いつものオドオドとした表情ではなく、怒りに任せたむき出しの表情・・・。

310: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:08:54.09 ID:2a8bPRZVo
前に、暁たち六駆のガキどもが中心に、『怒らせたら怖い先輩たち』をランキングしてたことがあった。

怒らせたら怖い、なので残念ながら常時怖いオレはランクインしなかったのだが。

311: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:09:34.44 ID:2a8bPRZVo
1位は我らが龍田。

2位が秘書艦・叢雲。罰則も振るい放題な立場だしな。

3位が不知火。まあ、ガキから見りゃ怖いんだろうな。その場にいた不知火が実は落ち込んでいたことをオレは知っている。


ガキどもはみんな何も違和感なくランキングを受け止めていた。

陽炎だけは3位に大爆笑してたっけな。

312: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:10:12.08 ID:2a8bPRZVo
正直、何もわかっちゃいないと思った。

なあ暁、響。お前ら神通のことちゃんと見たことあるか?

雷、電。お前たちこうやってコイツに睨まれたことあるか?


いつもオドオドしてる姿、ありゃ仮面だぜ?
その下に、ドス黒いモン抱えてうずくまってやがるんだ。


・・・ああ、おっかねえ。

313: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:12:03.63 ID:2a8bPRZVo
「もう一度聞きます、天龍さん。どういう、意味ですか」
「おや、聞こえなかったかな」


すっとぼけて見せるオレ。
あー、今からでも言うのやめちゃおうかなあなんて萎える心を叩き直して。


「艦娘は提督の命令に黙って従う兵器。そんなこと、お前が一番思っちゃいねーだろ、って言ったんだ。誰よりも、何よりもお前とそのい-――」

314: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:12:52.76 ID:2a8bPRZVo
瞬間。

胸元を掴まれたオレは、すごい力で引き寄せられた。
シャツのボタンが飛ぶ。

テーブルの上に乗ったモノがぶちまけられない様に支えてくれた夕張に感謝だ。


まあ、オレも言い過ぎたからな・・・一発くらい覚悟してやるよ。

でもよ神通、顔はやめてくんねーかなあ?

最近、ちょっとはそういうこと、気にするようになってきたんだぜ。オレもよ。

315: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:13:46.00 ID:2a8bPRZVo
待ち構えてた拳は、結局来なかった。


「二人とも、落ち着きなよ」
「そうよぉ~、喧嘩は良くないわ~」


「川内姉さん・・・」
「龍田・・・」


バッチリオレの頬を狙った拳は、寸前で龍田の白手袋の中へ収まっていて。

神通はというと、いつになく神妙な顔をした川内に羽交い締めにされていた。

316: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:14:39.89 ID:2a8bPRZVo
「・・・あなたに言われる筋合いはありません」

それでも抑えきれない怒りが拳でなく言葉となって、神通から放たれる。

「そうかな、仲間だろ」

「今の提督は、信頼してやってもいいんじゃないかな」
「余計なお世話です」

「神通・・・」
「・・・っ!」
川内が泣きそうな顔で妹の名前を呼んだのを聞いて、神通が揺らいだ。

317: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:15:27.57 ID:2a8bPRZVo
「天龍ちゃんも、言い過ぎよ?」
「そうだな・・・すまなかった、神通。踏み込みすぎたようだ」
「・・・私も、すみませんでした。天龍さんは悪くないのに・・・いつまでもウジウジしている私が悪いのに・・・」


演習に行ってきます、と言い残して神通が去っていった。

後を追うようにして川内も出て行く。

318: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:15:56.86 ID:2a8bPRZVo
「はぁ~、怖かったあ」

二人が出て行ったあと、ようやく力が抜けたのか夕張がため息をついた。


「もう、天龍!神通を刺激するのやめなさいよ。ただでさえあんなことがあったってのに」

「あんなことがあったから、だろ」

「天龍ちゃんでも川内さんでもダメとなると困ったものだけど。それでも天龍ちゃん、どうしていきなりあんなこと言いだしたの?」

319: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:16:28.54 ID:2a8bPRZVo
さあ、なんでだろ。
自分の気持ちを吐き出さずに溜め込んでいる神通をみると、なんだか無性に腹が立って。


もうそろそろ楽になれよ。
素直になっちまえよって思ったら、口に出しちまったんだよな。


川内姉妹・・・特に神通にとって、過去の傷を抉るのはタブーだってのによ。


「ちょっと、外歩いてくるわ」

塞いじまった気分を入れ替えるために、オレは一人で【間宮】を後にした。

320: ◆VmgLZocIfs 2015/03/07(土) 22:18:31.57 ID:2a8bPRZVo
一先ずここまで。
天龍のお話はあと少しでおしまいです。

神通の心の内は神通の視点で書きたいと思っております。
何があったかについても考えているのですが、カンの良い方にはバレバレかもしれませんね。

322: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:16:23.78 ID:hkwroTK2o
投稿していきます。
風呂敷を畳むのって難しい。

323: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:17:13.55 ID:hkwroTK2o
夕焼けに染まる鎮守府を、オレは一人歩いていく。

もうすぐ春だと言うのに、海から吹き付ける風はまだ肌を刺す痛みを含んでいて、オレの心をいっそう冷やしていった。


気持ちの整理がついてくると、神通に放った言葉に自己嫌悪が湧いてくる。

自分の気持ちを表に出さずに溜め込むなって。

324: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:17:44.79 ID:hkwroTK2o
「なんだそりゃ、オレのことじゃんか」

同じような状態にいる神通を見て、腹が立った。


仲間のことを思っての言葉じゃなく、ふがいない自分に向けた言葉。
ああ、どうやって神通に謝ろうかな・・・。


そんなことを考えながら歩いていると、鎮守府の端、埠頭の方まで行き着いてしまった。

325: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:18:13.99 ID:hkwroTK2o
紅く燃える太陽が沈み始める空を、海鳥が飛んでいる他は誰もいない。

スカートのポケットに手を突っ込んで、オレはただザザザ、と音を立てて寄せる波を眺めている。



「はあ、帰ろうかな」

「お前らしくないじゃないか、落ち込むなんて」

326: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:19:25.05 ID:hkwroTK2o
それは今一番聞きたくない声だったかもしれない。
それは今一番聞きたかった声だったかもしれない。


こんな風に弱っているオレを見て欲しくなかったのか。
こんな風に弱っているオレをちゃんと見て欲しかったのか。


もう、オレには分からない。
でも、たった一つ言えることは。


ソイツが今、ここにいてくれて。
オレが嬉しい、と感じたことだ。

327: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:19:54.67 ID:hkwroTK2o
「提督・・・」

提督がこちらに来るのが待てなくて、オレの方から駆け寄る。


「おっと」


オレは提督の胸に飛び込んで顔をうずめる。
・・・すごく、落ち着く。

328: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:20:22.38 ID:hkwroTK2o
「どうした、天龍。なんだか最近、俺に甘えてばかりじゃないか」

「うっせえ」


提督がオレの頭をそっと撫でると、幸せな気分になっていくのが分かる。


ああ、なんだか。
今日は、何でも話せちまいそうだ。

329: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:20:58.67 ID:hkwroTK2o
「そうか、神通とな・・・」
「全部オレがわりぃんだ」

さっき起こったことをすべて吐き出してしまうと、いくらか楽になった。
オレたちは埠頭の縁に腰掛けて、話を続ける。

すぐ下は海で、足元が少し心もとない。


「いや、神通が抱えているモノは俺も分かっていたつもりだ。今まで解決してやれなかった俺に責任がある」

提督が言う。

やっぱ神通のことは前から気にしてたか・・・。

330: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:21:31.46 ID:hkwroTK2o
「時間をかけて、と思っていたが・・・俺にも時間がないからな。明日にでも解決に向けて動くさ」

「明日!?そんなにアッサリと解決出来んのかよ!」


やっぱ提督は凄いやつかもしれない。

オレや、川内ですら解決出来なかった神通の心の闇を、こいつなら取り払ってやれるのかも・・・。


「・・・・・・」

331: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:22:02.73 ID:hkwroTK2o
「ん、どうした?」

別に、何とも思ってやしないさ。
そんな子供じみた意地とは裏腹に。


「神通のことばっか、見てやってるんだな」
オレの口から付いて出たのはそんな言葉。


「何だ、嫉妬か?」
「べ、別にそんなんじゃねーよ!」


嘘だ。
これは嫉妬だ。

提督が、他の艦娘のことも見ているということへの。
・・・ちょっと前までは、それが信頼へと繋がっていたのに。

332: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:23:16.29 ID:hkwroTK2o
「で、でもよ。本当に時間がないんだぜ、本当に上手くいくのか?」

「上手くいくかは、分からない。今日と、明日の次第だ」


今日・・・?


「正確には、今から、だな」


提督が何を言っているのか、よく分からない。
不思議に思って提督の方を向くと、提督もオレの方を見ていた。

目と目が合う。

333: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:23:45.22 ID:hkwroTK2o
「天龍、俺はお前のことも見ているんだよ」
「な!?ななな・・・」


何言ってんだ!?

オレの中で急速に湧き上がる期待と不安。

それらが混ざり合って、膨らんでゆく。

334: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:24:14.58 ID:hkwroTK2o
「最近の出撃、上手く行ってないだろう。具合でも悪いのか?」

「ああ・・・」


そういう事か。

さっきまで爆発寸前だったオレの気持ちが萎んでいくのを感じる。


確かに、最近—-具体的には元帥の襲来以降—-オレの出撃での戦果はパっとしていない。

理由はやっぱり・・・。

335: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:24:47.71 ID:hkwroTK2o
「提督、オレたちってやっぱり兵器なのかな」

「そんなことはない!」

「わ、わ・・・!」


いきなり肩を掴まれる。


「お前たちは兵器じゃない、艦娘だ。元帥の言葉を間に受けるものじゃないし、神通のその考えも俺が直してみせる。だから-――!」


ぐ、っと提督に引き寄せられそうになって、オレは慌てた。

336: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:25:47.32 ID:hkwroTK2o
自分で飛び込むのはオーケーだったくせに。

やられる側となると話は別だ。

オレが暴れるとは思ってなかった様で、提督も慌てる。

元々足場が不安定だったせいか二人もつれて海に飛び込もうとしたところを、何とか反動をきかせて反対側へ身体を倒れ込ませる。



「ってて・・・何とか海にダイブ、ってのは避けられた・・・!?」

「ああ、すまないな・・・っと!?」

337: ◆VmgLZocIfs 2015/03/09(月) 22:26:34.20 ID:hkwroTK2o
問題は、二人が倒れ込んだ位置。

海に落ちないようにお互いがお互いを引っ張った結果、一緒に倒れ込んでしまって。


顔が、すごく近い。

どちらかが寄せれば、くっついてしまいそうなほどに。



「あ・・・」


吐息が、漏れる。

キス、できそうな距離だ。

346: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:06:19.55 ID:vFFYfvHjo
そう思った瞬間、オレは無意識に提督に近づいていた。

提督は顔をそらさない。

・・・なら、良いってことかな?



なあ、しちまうぜ?



唇と、唇が触れる3秒前。
オレの唇に提督の人差し指が乗せられて勢いが止まる。

347: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:06:45.65 ID:vFFYfvHjo
何だよ、やっぱりオレとじゃ嫌なんじゃねーか。


なら、期待させないでよ・・・。
こんなに、優しくしないでよ・・・。


「その前に、一つはっきりさせておくことがある」
「へ?」


その前に、ってことは・・・。
・・・嫌じゃ、ないってこと?

348: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:07:12.04 ID:vFFYfvHjo
「う、うん。何・・・?」

「それはな、さっきお前が悩んでいると言ったことにも直結している」
「何のために戦うか、ってことか」


そうだ、と提督は言った。


でも、それきり。
いつもとは違う歯切れの悪い口調。

349: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:07:45.37 ID:vFFYfvHjo
やがて覚悟を決めたように、提督が言う。

こういう話を知っているか、と。



「恋心が、艦娘を強くする」



・・・誰かがそんな話をしていた気がする。

その頃は人間に恋をするなんて考えられなくて、笑い飛ばした様な。

350: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:08:23.44 ID:vFFYfvHjo
「元帥が言っていた鎮守府があったろ。呉」

「ああ、海域を攻略したっていう・・・」

「あそこがそれを証明した」



それは、どういう・・・?

疑問は、すぐに提督が答えてくれた。

351: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:08:53.04 ID:vFFYfvHjo
「海域の敵旗艦・・・ボスを倒したのは、提督と恋仲にあった艦娘だ」

「その艦娘は、提督と結ばれてから全てのスペックが格段に上がったそうだ」



火力、装甲、回避、索敵・・・。

それらの向上はそのまま戦場での戦果に直結する。

だけどそれが恋心のおかげなんて、すぐには信じられない。

352: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:09:38.14 ID:vFFYfvHjo
「最もその艦娘は向上したんじゃないと言っているがね」
「スペックが上昇してるのに、か?」

「うん・・・もともとこれくらいできる気がしてた、とね。恋に落ちる以前は、何故だか出来なかったけれど、とも」
「あ・・・」




「そうねぇ、何ていうのかしら。もっと身体を動かせる、交わせる。当てられる。そんな感覚はあるのに、実際は上手く動けないのよねえ」

「頭の中では出来る、と思っていることが実際やってみると中途半端というか・・・そんな感覚は、あります」


龍田と、神通の声が脳裏に蘇る。

あれはいつの会話だったか。

353: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:13:13.87 ID:vFFYfvHjo
「艦娘の持つ潜在能力はケタ違いだ」

提督は続ける。

「なのに、お前たちはまだその全てを引き出せていない」

「そう、艦娘のコンディションは心の持ち用に激しく左右される」

「今までも意識することはなかったか?気分がいい日と悪い日の戦果の違いに」



あ、っとオレは本日何回目になるかという驚きの声を上げる。

提督のことが信頼できると確信したあの日から、戦果が良い日が続いた。

身体も軽かった。元帥の発言で揺らいだ日から、オレが稼ぐ戦果は大したことがなかった。

354: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:14:31.63 ID:vFFYfvHjo
「艦娘の気持ちさえ上向いていれば、その素は何だっていい」


使命感、名誉欲、戦闘での高揚感はたまた金銭・・・人を戦いに駆り立てる理由ならいくらでもある。
でも艦娘は。


「海から生まれてきて、あるいは工廠で建造されて・・・いきなりそんなものを持てと言われても、出来るわけがないと思わないか?」


確かにそうだ。

現にオレたち艦娘側は、誰ひとりそんなものは持っちゃいないまま戦いに望んでた。

そしてそれが、前任の提督たちとの軋轢を生んでいたのだから。

355: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:15:31.56 ID:vFFYfvHjo
国を守れと、何とも思っちゃいないどころか嫌いな人間に言われたってやる気も出ない。

なら、そんな艦娘たちを指揮する提督の為すべき役割とは。


「もう、話は見えてきただろ?」
「ああ、素人のおめーが着任してきたのも」

「そういうことさ」


そう、仮に。
好意を寄せる人物が提督だったとしたらどうだろう。

356: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:16:15.73 ID:vFFYfvHjo
恋心。

それは艦娘たちにとって、お国を護るなどという使命感なんかよりもよっぽど強い気持ちとなりうるのではないだろうか?



そしてそれならば、軍事的な考えでがんじがらめになっている奴よりも、女心を掴むことの出来る奴の方が適任だ。

目の前のコイツのような、若くて格好良くて、優しい男の方が。



「演技は得意だ、と言ったろう?」

提督が自嘲気味に呟く。

357: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:17:10.51 ID:vFFYfvHjo
「何もかも、オレたちに好かれるためだったってのか?」

「そうだ。艦娘の生存を第一に考える、理解のある上官。それを演じることで君たちに好かれようとした」


「何のために」
「全ての深海棲艦を殺すために」


今まで聞いたことのない低い声に、オレははっと提督の方を向き直る。

暗い目をしていた。

まるですべての希望が、あの暗い海の底に沈んでしまったかのような・・・光の届かない深海の中で蠢く、ドス黒い殺意・・・。

358: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:19:07.25 ID:vFFYfvHjo
「だから鎮守府のエースである天龍、龍田、川内、神通には特別に好かれるように行動していた」
「全ては奴らに・・・敵に勝つために」


「オレたちが見てきたお前は、ぜんぶ演技のニセモノだってことか?」
「そうだ」

瞳に光を戻して、提督が言う。

「だが俺は天龍、お前のことが好きだ。だから、包み隠さず話した」
「その上で、どうか俺を好きになって欲しい。そして、一緒に戦って欲しい」

359: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:20:28.34 ID:vFFYfvHjo
はは、なんだそれ。

「随分と都合のいい話しじゃねーか」

「百も承知だ」

「で、何でそれを今更話した。ずっと黙ってれば良かったのに」


こいつの言う通り、オレたちが騙されていたのだとしたら。
そのまま放っておけば都合が良かっただろうに。


「ありのままの俺を知ってもらって、お前たちに好かれたい。そう思ったから」

あーあ。
オレ、何でこんな奴のこと好きになっちまったんだろうな?


とにかくこのままじゃ気がすまない。
それだけは思った。

360: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:21:06.23 ID:vFFYfvHjo
「オレに嫌われるとは思わなかったのか?」

「正直、そう思ったさ」


ふう、と提督が息をつく。
さっきまでの暗い感情を引っ込め、何かを諦めたような寂しげな表情を浮かべて。



「じゃあ、喋るなよ。艦娘に嫌われたら深海棲艦を倒すことも出来ないんだろ?」

「だから、言ったろ。ニセモノの俺でなく、ありのままの俺を好きになって欲しいって」

361: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:22:48.47 ID:vFFYfvHjo
ああ、結局こいつは。

何も分かってねえ。

オレのこと、何も分かってねえーんじゃん。

なーにが理解のある上官、なんだか。
演技だとか騙すだとか、こいつが気にしていることなんかじゃなく。

気に食わないのは、オレのこの思いさえも提督は自分が抱かせたニセモノだと思っていることだ。

だから、教えてやることにした。
オレなりのやり方でな。

362: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:23:46.43 ID:vFFYfvHjo
「一発・・・それで許してやるよ」

「ハハ、天龍は優しいな」

「いいから、目ェ閉じろや」


殴られると確信してか、それでも提督は静かに目を閉じた。

自分がしたことに対する罰を喜んで受け入れようとか、そんな殊勝なことでも考えているんだろう。

363: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:24:22.02 ID:vFFYfvHjo
いいぜ、受け入れてもらうとするか。

ただし、お前が期待したようにはいかねーけどな。



目を閉じて立ち尽くす提督に一歩、距離を寄せる。

提督の息遣いがオレの前髪を撫でる。

頭の中がポウ、っと軽くなり顔中から湯気が吹き出そうなくらい熱を感じる。

まるで沸騰したやかんみたいだな、なんて場違いなことを思った。

364: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:24:52.31 ID:vFFYfvHjo
「天龍・・・?」
「黙って目、閉じてろ」


いくら待っても拳が飛んでこないことを疑問に思ったのか。
提督が話しかけてきたけれども、有無を言わせず黙らせる。


覚悟は、決めた。
オレは自分の感情に、心の赴くままにやりたいことをやるって、決めたんだ。


だから、もう何もかも関係ない。

ありのままをぶつけるだけさ。

365: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:25:45.53 ID:vFFYfvHjo
「行くぜ、覚悟しろよ?」

「ああ」


提督の体が衝撃に備えて固まるのを感じる。

行くぜ。もう一度、心の中で呟いた時には、オレはもう動いていた。


背伸びなんかじゃ、勢いがつかない。だから。

更に小幅に一歩踏み出して、オレよりも身長の高い提督に合わせるために跳ぶ。


それで十分だった。高さが釣り合う。

提督とオレの顔が並ぶ。

366: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:26:28.98 ID:vFFYfvHjo
「え」

唇と唇が微かに触れ合い、すれ違っていく。
それは、一秒にも満たない刹那のキス。


重力に従ってオレの足が地面に着く。
収まりきらない勢い任せに、オレは勝手に提督に身体を預けることにした。


「わ、っとと・・・」

動揺する暇もなく提督がオレを抱きとめる。

367: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:26:59.11 ID:vFFYfvHjo
「へへ、仕返しだ」

「て、てて・・・天龍、お前何を・・・」


こんなにうろたえる提督、珍しいな。でも、まだ分かってないみたいだから。

トドメを指してやる。



「演技だの、ニセモノだの、どうでもいいね」


目の前のボンクラに向かって言い放つ。

368: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:28:21.57 ID:vFFYfvHjo
「オレは提督・・・お前を好きになったんだ。目の前のおめーをよ。オレたち艦娘のことを心配してくれて、優しくしてくれて。時々からかってきてよ・・・」

「でも、それは・・・」

「オレたちに好かれるためだったってか。どうでもいいじゃん、そんなこと」

「は、っはああああ?」

オレの開き直った言い方に驚く提督。

369: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:30:33.88 ID:vFFYfvHjo
「だからさ、それは提督にも『オレたちに好かれたい』って気持ちがあったからじゃん」

「それともそれは全部全部戦いのためで、本当は敵さえ倒せればオレたちが沈んでも良かった?沈むなって言ってくれたあの言葉も嘘だった?」


「そんなことはない!」


「ほら、それが答えじゃねーか。何ウダウダ言ってんだ?」

「あ・・・あ・・・」

370: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:31:04.67 ID:vFFYfvHjo
「だいたいよ、ありのままを受け入れてくれとか言ってその通りになったんだ。これ以上何が不満だって言うんだ?」

「お、お前はそれで良いのか、天龍・・・」


あーあ・・・こいつ、まだ分かっちゃいねーや。


「・・・好きになっちまったんだ、しょうがねーだろ」

371: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:32:26.35 ID:vFFYfvHjo
わからず屋に向かって、オレは続ける。

「オレは馬鹿だからな、演技がだとか、そんなことはどうでもいい。何のために戦うのか・・・そんなことももう、どうだっていいや」


喋っていくうちに、自分自身の考えもクリアになっていって。
自然と答えが見つかった。

372: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:32:57.60 ID:vFFYfvHjo
「そうだな、オレはお前のために戦うよ。提督が何を背負っているのかは知らないけど・・・オレは、好きな人のために生きて、戦う。それでいい」


「提督、オレは・・・お前が好きだ。そんで、それが全部だ」

言い終わったあと、オレはとびきりの笑顔を提督に向けてやる。


「そうか、そうかなあ・・・?」
「そうだよ」

373: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:34:29.27 ID:vFFYfvHjo
「俺はお前に嫌われる覚悟もして来たんだけどな」

「へへ、残念だったな。思い通りにいかなくって」

ふう、とため息をついて。

「何だか楽になれた気がする。俺のしてることは褒められたことじゃあないけれど]

でも、と。

「それでいいって言ってくれる奴が隣にいてくれたら、それでいいのかもしれない」


一つ吹っ切れた表情で、提督が言う。

374: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:35:36.35 ID:vFFYfvHjo
「ありがとうな、天龍」
「おうよ」

海から一際強い風がオレたちの間を駆け抜けて、清々しい気分を残していく。

余りにもいい気分で、オレは壁を乗り越えた自分を誇っていた。

だからオレは聞き逃したんだ。




でもな、天龍と提督が呟くのを。

それがいつもオレのことをからかう時の声だってことを。

375: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:36:07.41 ID:vFFYfvHjo
「上官として、部下にやられっぱなしってのはイカンと思うんだ」

「ひゃ・・・!」


瞬間・・・オレの腰に提督の手がまわされて、勢いよく抱きしめられる。

オレが壊れてしまうんじゃないかってほど強く、強く。


「提督、何して・・・っん・・・んんん!?」

376: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:36:43.11 ID:vFFYfvHjo
抗議の声を上げようとしたオレの口が、提督の口で塞がれた。


唇と唇なんていう生易しいものじゃない、口と口での・・・キス。


恋人同士のキス。

377: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:37:28.36 ID:vFFYfvHjo
さっきまで提督をやり込めていた余裕なんて、吹っ飛んじまった。



5秒・・・?
10秒・・・?
それ以上・・・?


どれくらいの間、奪われていただろうか。

混乱したオレの頭では分からない。

378: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:38:50.45 ID:vFFYfvHjo
「・・・っぷは・・・!」


やっと開放された口で、思いっきり息を吸い込む。

はあはあ、と息遣いが乱れているのは、呼吸が出来なかったからだけじゃない。


顔だけじゃなくって、身体中が熱くなるのを感じた。

心臓が早鐘を打ち出すように、バクバクと血液を送り出しているのが分かる。

熱くって幸せでワケがわからなくって・・・悲しくもないのに目から涙が溢れそうになって。



自分でも制御出来ない感情の高鳴りにオレは戸惑っていた。

そんなオレに、トドメが刺される。


379: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:39:32.17 ID:vFFYfvHjo
オレの腰を抱いた提督の腕に力がこもって、再び吸い寄せられる。

つま先立ちになる格好で提督に支えられるオレは、さっきまで頼りなくすがっていきてた上官のなすがままだ。


戸惑う耳元に提督の顔が近づく。
今までにない甘ったるい声で、囁かれる。


「天龍、好きだ」
「な、な・・・」

もう一度、キス。

380: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:40:14.73 ID:vFFYfvHjo
今度は唇と唇が触れ合う。

提督の唇がつつくようにオレの唇を弄んだあと、そっと重なり合う。


さっきオレから仕掛けた刹那のキスは、一世一代の勇気を振り絞ってやったのに。

今、それ以上のことをされちゃってるよ・・・龍田、どうしよう・・・。



龍田、どうしよう・・・オレ、嫌じゃないんだ。

381: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:41:00.16 ID:vFFYfvHjo
嫌じゃない、むしろ・・・そう思いつつも、オレの身体は素直じゃなくって。

提督に抱かれて拘束された両腕を、アイツの胸を押すようにイヤイヤと力なく暴れさせて。

提督の唇から逃げるように顔を遠ざけようとして。




そしてそんなオレをアイツが、逃がすはずもなくって。

「ひゃ・・・んっ・・・ん・・・」


結局、オレは短い悲鳴を漏らしただけで、唇は重なり合ったまま。

そのまま、たっぷりと時間をかけて、オレと提督は一つで有り続けた

382: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:41:35.37 ID:vFFYfvHjo
ようやく、唇が離れる。
はあ、とお互いの吐息が混ざり合う。


「い、いきなりこんなこと・・・」
「嫌だったか?」


オレを見つめながら、からかうように提督が言う。

383: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:42:08.37 ID:vFFYfvHjo
「嫌なわけ、ない・・・」
「俺のこと、好きか。天龍?」


うん、と返事をすると、してやったりという表情でこう言い放ちやがった。

「俺もだ、好きになっちまったからな・・・しょうがないんだよな?」


くそう。

そんなこと言われたら、もう怒れないじゃんか・・・。

384: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:42:46.09 ID:vFFYfvHjo
「天龍、俺は、お前のことが、好きだ」

もう一度、囁かれるその言葉にオレは蕩けてしまうそうになる。
でも、次に紡がれた言葉が、またオレを追い詰める。


「で、天龍の気持ちはどうなんだっけ?」

「へ?」


ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたまま、提督が真っ赤になったオレの顔を覗き込んでいた。

両腕を塞がれたままだから、オレは顔を隠すことも出来やしない。

385: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:43:21.51 ID:vFFYfvHjo
「そんな・・・それはさっきオレ、言った・・・じゃ・・・ねーか・・・」


言葉がどんどん尻すぼみになって俯くオレを、提督は逃がさない。

オレを捕まえたまんま、器用に片手でオレの顎を捕まえて上向かせる。



「うん、って言っただけだろ。きちんと言葉にして聞きたいな」

「その前に・・・言ったじゃん・・・」

「そうだっけ、覚えてないなあ」


嘘だ。この顔は演技。

絶対覚えてるのに、オレに言わせたいだけ。

386: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:44:00.98 ID:vFFYfvHjo
「なあ、やっぱり天龍を騙してたこと怒ってるのか、俺のこと嫌いなのかな?ん?」

「ちょ、調子に乗りやがってぇ・・・」

もうオレは涙声だ。



頭の中で警告が鳴り響く。

これ以上は、危険だ。

言ってしまったらもう、戻れない気がする。


でも。

387: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:45:49.54 ID:vFFYfvHjo
その間にも、提督が耳元で何回も囁く。

天龍、好きだよ。好きだよって。


オレの脳が蕩けていく。

体の芯がキュン、として全てを許してしまいそうになる。

ああ、もう・・・。


388: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:46:16.18 ID:vFFYfvHjo




「オレも・・・オレもぉ・・・提督のこと、大好き・・・」


提督のことしか考えられないや。

389: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:47:03.97 ID:vFFYfvHjo
「っん・・・!」

瞬間、またオレの口が提督の口で塞がれた。

ああ、またさっきみたいなキスが続くんだなとボヤけた頭で思っていたけれど、違った。



とつぜん、口内に生暖かくてドロっとした感触が広がる。


「・・・ふぁ・・・て、てい・・・とく・・・!?」
「ん、どうした、天龍?」


一瞬だけオレを開放して、提督。

390: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:47:59.34 ID:vFFYfvHjo
「はあ、はあ・・・し、舌が・・・ひたが・・・はぅ・・・!!!!???」


再び、オレの口内にさっきの感触。


「は・・・んっ・・・ん・・・ふぅ・・・ひ、ひたが・・・」


「へいとくの・・・ひたが・・・ふぁぁ・・・ん・・・・・・んんん!?」

391: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:51:17.44 ID:vFFYfvHjo
「ひた・・・入ってきちゃ・・・っん・・・らめぇ・・・」


呂律が回らない。

だって、今オレの口は。

提督の舌が侵入して来て、すき放題暴れているのだから。

392: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:51:52.72 ID:vFFYfvHjo
「天龍、好きだ」


「ふぁ・・・んん、ふぁぁぁ、へいとく・・・んん・・・」

「へいとくぅ・・・らめ・・・だめだよう・・・ふぁぁ・・・」



「こんなに天龍のことが好きなのに、駄目なのか?」



また、オレのことを好きだという。

それだけで、オレの心はいっぱいに満たされていく。

393: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:54:50.71 ID:vFFYfvHjo
「う・・・ん、それでも・・・らめぇ・・・だよぉ・・・」

ひと呼吸置いて、二人の荒い息遣い。

「はぁ、はァ・・・んんっ・・・またぁ・・・オレのなか・・・入ってきてぇ・・・ふぁ・・・」



提督の舌が口内を侵して、オレをめちゃくちゃにする。

舌と舌が絡み合い、粘液が交換されて混ざり合う。

提督の舌がオレの歯茎を右から左へ、左から右へと舐めまわす。

「ふぁ・・・ふぁぁぁっぁん、そんなぁ・・・へいとく・・・ていとく・・・」

394: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:56:41.09 ID:vFFYfvHjo
深い深いキスが終わって、オレを好きなように貪った提督の顔が離れていく。


「あっ・・・」

ようやく、開放されたのに。
(もう、終わり?)


もう身体中が火照ってしまって、これ以上は危険だと分かっているのに。
(もっと、もっと・・・提督、提督をもっと)



提督のことがあまりに愛おしくって。

さっきまで味わされた感触が、あまりに気持ちよくって。

395: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:58:21.03 ID:vFFYfvHjo
「て、天龍?・・・ん!」
「提督・・・好き・・・んんんっ・・・!」


今度は自分から、提督の口に舌を入れた。

さっきは侵入を許したけれど。

今度はオレも舌を動かしていたから、二人の舌と舌が真ん中で絡み合う。

396: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 17:59:01.63 ID:vFFYfvHjo
「ん・・・ふぁ・・・ていとく・・・ていとくぅ・・・んちゅ・・・大好き、大好きぃ・・・」


自分からいけないことを仕掛けたからか、背徳感がゾクゾクっとオレの中を駆け抜けていく。

提督と一緒に、どこまでもどこまでも落ちていく感じがして気持ちいい。



世界がオレと提督の、二人だけのものになったような気がした。

397: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:01:54.49 ID:vFFYfvHjo
「ん・・・ふ・・・あん・・・・ひゃん・・・!?」

いつの間にか提督の手の甲が、オレのむき出しの鎖骨のあたりをなぞっていて悲鳴を上げる。


「ふぁぁ・・・ひゃっ・・・んでぇ・・・どうしてぇ・・・あっん・・・?」


いつのに・・・と思って、オレは先ほどの神通との揉め事で、シャツのボタンが飛んでしまったことを思い出す。

398: ◆TWfvgYH89. 2015/03/14(土) 18:03:02.85 ID:vFFYfvHjo
「あの時の・・・ひゃんっ・・・!」

今までどんな無防備な姿で提督の前にいたんだろうと思うと、これ以上ないくらい赤かった顔が恥ずかしさでさらに一層染まっていく。


でも、恥ずかしがってばかりもいられない。
こうしている間にも、提督がよりいっそうオレを辱めようとしているのだから。

399: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:04:39.72 ID:vFFYfvHjo
「提督、そこは駄目・・・らめぇ・・・ひゃう・・・ふぅん・・・ああ、やめ・・・」



オレの力ない抗議を無視して、提督の愛撫が続く。


舌で歯茎をなぞられたのと同じ様に、今度はゆっくり、ゆっくりと手の甲がオレの鎖骨を往復する。


その度にオレは、漏れ出てくる声を必死に抑えながら、絶え絶えになる呼吸を続けていた。

400: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:06:30.03 ID:vFFYfvHjo
「なんでだ、こんなに可愛いのに」

「オレが・・・か・・・いい・・・?ひゃん・・・」


もう片方の手が背中を撫でる。

つ、っと指先が背中の中心を上から下へと撫ぜて、またもやオレの悲鳴があがる。

401: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:07:37.35 ID:vFFYfvHjo
「ふぁぁぁぁ・・・やぁ・・・らめらってぇ・・・いってるのにぃ・・・くぅん・・・」


悲鳴・・・そう、これは悲鳴、悲鳴なんだ。

悲鳴、悲鳴。言葉を変えてしまえば、それはどんなにかいやらしい響きになるのだろう。



「うん、かわいい。でなきゃ好きにならないだろ?」

「で、でもオレ・・・んぅ・・・くん・・・ぜんぜ・・・ん、女の子らしくないし・・・・ふぁ・・・」


鎖骨と背中を同時に撫でられて、何が何だかわからなくなる。

でも、ずっとずっと・・・いつまでもこうされていたい。

そんな甘い欲望が、オレを支配していく。

402: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:09:18.75 ID:vFFYfvHjo
「可愛いし、とっても女の子らしいさ」

「そん・・・な。ふぁぁ・・・おれ・・・おれぇ・・・」


欲望に支配されたオレを誘うのは、悪魔の囁き。



「天龍、自分のこと『わたし』って言ってみて。そんで、俺のこと好きって言ってよ」


「そん・・・な、オレなんか、似合わな・・・あっ・・・」


403: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:12:23.62 ID:vFFYfvHjo
永遠に続くと思っていたキスが終わって、提督の舌がオレの中から出て行く。


提督の手の動きが両方とも止まる。

鎖骨をなぞっていた手も、背中を撫でていた手も。

オレを焦らすように、すべての愛撫が止まって。


「ほら、言ってごらん?」

残ったのは、悪魔の囁きだけ。

404: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:16:01.55 ID:vFFYfvHjo
唇にそっとキスされる。

でも、もうこんなんじゃ足りない。

さっきまでもっと凄いことされていたのに、こんなんじゃ全然足りない。



それはまるで砂漠で乾きに飢えている旅人に、一滴だけ水を与えるような。

そうすることでより喉の渇きを自覚させる、拷問。

405: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:17:38.63 ID:vFFYfvHjo
「そんな・・・ていとくぅ・・・」


泣きそうになりながら懇願するけれど、許して貰えない。


「キスしてよぉ・・・もっとオレのこと撫でてよぉ・・・」


もちろん悪魔は頷かない。
聞き分けの悪い子供を叱りつけるようにして、言う。


「どうした、『わたし』って言ってごらん、天龍」

ご褒美は、頑張った子にしか貰えないんだから。

406: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:25:47.44 ID:vFFYfvHjo
「言ったら、また撫でてくれる・・・?キスしてくれる・・・?」

「キスなら、今したじゃないか。ほら」

もう一度、唇がちゅ、っと触れる。


「提督・・・うぅ・・・酷いよ、ひどいよぅ・・・」
「天龍、どうした。こうしてキスしてるじゃないか」


分かってるくせに、分かってるくせに分かってるくせに・・・。

こんなんじゃ全然足りないって。

407: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:26:49.59 ID:vFFYfvHjo
さっきみたいないやらしいことしておいて・・・。

あんな味を教えてからこんなことするなんて、酷いよ。



「こんなんじゃないよぅ・・・し、舌入れて・・・す、すごいやつ、してくれる・・・?」

「あと・・・か、身体・・・撫でて・・・い、いっぱい触って・・・くれる?」



泣きそうになりながら、オレはご褒美をねだる。

まるで生まれたばかりの雛鳥が親に必死にエサをねだるように。

それがないと生きていけないというように。

408: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:27:33.97 ID:vFFYfvHjo
「ああ、いっぱい、いっぱいしてあげる」
「うん、じゃあオレ、頑張る・・・」


こら、と頭を撫でて、提督が言う。


「オレ、じゃないだろう。天龍?」
「うん・・・」


なんでだろう、さっき自分からキスをした時よりも、何倍も何倍も勇気がいる。

ああ、そっか。

オレにとって。

わたしにとって、これが、女の子になるっていうことなんだ。

409: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:28:05.71 ID:vFFYfvHjo
「わたし、わたし・・・」

「ほら、がんばって」


頭を優しく撫でられる。

「俺のことどう思っているか、教えて。天龍」


「わたし・・・提督のことが・・・好き」
「よくできました」


静かに、そっと提督が近づいてくる。

わたしはそれを待ちきれずに、口を開けて舌を突き出す。

舌と舌が、再び絡み合う。

410: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:30:33.61 ID:vFFYfvHjo
「ふぁ・・・ああ・・・んっく・・・ひゃあん・・・」

貪るようにお互いがお互いを味わいはじめて、溶け合っていく。


「ひ・・・ん・・・へいとく・・・オレ・・・わたし・・・わたひぃ・・・」



提督の手が動き始めて、わたしを高めていく。

鎖骨を弄られるたびに背筋がゾクゾクと震えて。

震えた背筋をまた、提督の指が撫でていく。


「ひぁぁっぁぁ・・・もっと、もっとさわってぇ・・・ふぅん・・・」

411: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:32:03.29 ID:vFFYfvHjo
「ていとく、ていとく・・・わたし、提督が好きぃ・・・好きだよぉ・・・」


何度も何度も、今まで言えなかった分を取り返すかのように好きって繰り返していた。



そんな高ぶりにも、ようやく限界がきて。

提督の舌がわたしの舌から離れて、かわりに鎖骨をねっとりと舐めあげて。

背筋を撫でていた手がそれに合わせて、わたしの首筋を優しくなぞった瞬間。



「ひゃあああん・・・ふあぁっぁぁぁ、あああぁぁぁぁん・・・ああっ」



ビクビクと身体が震え、悲鳴と誤魔化すにはあまりにも淫らな嬌声を上げながら。

真っ白になる意識の中に、提督への愛おしさだけを浮かべて。

完全に力を失った足が崩れ落ちて、今度こそわたしは提督の胸に倒れ込んでいった。

412: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:33:09.05 ID:vFFYfvHjo
「ん・・・」
「気がついたか」


気づくとオレは、提督の胸に背を預けて座っていた。

・・・提督に包まれているみたいで、ドキドキする。



「いやあ、すまん。やりすぎたようだ」
「な、あ、ああ、て、てめえよくも!」


慌てて向き直ろうとしたけど、急に恥ずかしくなってきてやめた。

413: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:34:06.28 ID:vFFYfvHjo
「おいおい、先に仕掛けてきたのは天龍からだろう?」

「な、オ、オレはあんなことまでするとは思ってなかったんだよ!」


ちょっと懲らしめてやるだけのはずだったのに、結局コイツのされるがままだった。


「あれ、もうわたしって言ってくれないの?」
「二度というか!」


ちぇ、っと舌打ちしながら提督が残念そうに言う。

414: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:34:35.82 ID:vFFYfvHjo
ミス。すみません。

415: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:35:03.44 ID:vFFYfvHjo
「おいおい、先に仕掛けてきたのは天龍からだろう?」

「な、オ、オレはあんなことまでするとは思ってなかったんだよ!」


ちょっと懲らしめてやるだけのはずだったのに、結局コイツのされるがままだった。


「あれ、もうわたしって言ってくれないの?」
「二度というか!」


ちぇ、っと舌打ちしながら提督が残念そうに言う。

416: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:36:12.07 ID:vFFYfvHjo
「結構可愛かったんだけどなあ」

「な・・・ぜ、絶対言わねえからな!あの時はどうかしてたんだ!」


・・・あれ、後ろで感じる提督の雰囲気が変わった気がする。

具体的に言えば、オレに『わたし』って言わせたときの意地悪な雰囲気に。



「じゃあ、もう一度どうかさせれば、言ってくれるのかな?」

「ひゃん・・・」

417: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:36:57.14 ID:vFFYfvHjo
耳の後ろに唇が触れる。

ボタンがなくって空いたままのオレの胸元に、再び提督の手が伸びていく。

さっきと違うのは、それが手の甲じゃあないってこと。


伸びてくる提督の手を握るけれども、そんなの何の抵抗にもならない。

だって、オレ自身がすでに、これから何をされるのか期待してしまっているのだから。


これ以上は駄目、これ以上は駄目。


でもオレは提督の手を止めることができなくって。
提督はそもそも、止まる気がなさそうで。

418: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:37:31.95 ID:vFFYfvHjo
そんなオレたちを現実に引き戻せるのは、外からの声だけだった。


「あら~、提督ったら~。天龍ちゃんをどうしちゃうつもりなのかしら~?」


空気が、凍った。

419: ◆VmgLZocIfs 2015/03/14(土) 18:38:33.06 ID:vFFYfvHjo
書き溜め分全投下。
一旦閉めてたまったらまた来ます、今日中に完結できると良いのですが。

423: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:23:01.39 ID:jMGc3997o
>>420
文章力の要る課題ですね・・・龍田視点でやれるかどうか(やるとは言っていない)

今回の投稿で天龍視点終わりです。
それではよろしくお願いします。

424: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:33:59.35 ID:jMGc3997o
気が付けば陽は水平線の彼方に落ちて、あたりはすっかり暗くなっていた。

だから、何をしていたか龍田には見えなかったはずだ。

何をしていたか分からなかっただろう、と考えるのは都合が良すぎるけれど。



オレはこの状況を龍田にどう説明するか迷った。

龍田が少なからず提督に好意を寄せているのは知っていたから。

・・・まさかよろしくやってましたなんて言えまい。

425: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:34:37.96 ID:jMGc3997o
・・・あれ、ここは正直に言うべきなのか、どうなんだ?

経験が無いから分かんねえな・・・。

助けを求めて提督をチラっと見ると、任せておけと言わんばかりに頷く。




「おう、龍田。今天龍とよろしくやってたところだ」

「そうそう、よろしくやって・・・ってオイ!?」

何で早速バラしてるんだ、馬鹿なのか、コイツは!?

426: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:35:06.46 ID:jMGc3997o
おそるおそる龍田の反応を伺うと、何故かいつも通りの微笑みを浮かべている。

「あら~、じゃあ作戦は上手くいあったのね~」

「ああ、大成功」

「良かったわ~、天龍ちゃんが怒ったらどうしようかと思っちゃったから~」


・・・・・・へ?

どういうこと・・・?

427: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:35:47.39 ID:jMGc3997o
ワケが分からずポカンとしているオレを置いて、龍田がどんどん話しを進めていく。


「これで天龍ちゃんと私、二人いっしょに愛してもらえるわぁ~」

「おいおい、川内と神通にはフラれるみたいじゃないか、それじゃあ」



二人いっしょ?
川内と神通も?


「お、おい提督・・・それに龍田、どういうことだよ?」

全く事態を理解していないオレを見て、龍田が提督に話しかける。

428: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:37:03.21 ID:jMGc3997o
「あら~、提督。天龍ちゃんにちゃんと説明しなかったんですか~?」

「いや、最初にしたと思うんだが・・・今からの出来と、明日次第だって」


そういえば、最初にそんな事を言っていた。

「オレに好かれるように演技してた、って白状した時に言ってたな」

そんなオレの発言に、龍田がもう、違うでしょうと一言。


「それじゃあ天龍ちゃんだけで私が愛されなくなっちゃじゃないの~」

「お前、俺の話ちゃんと聞いてたか?」

429: ◆TD8XgNJhE2 2015/03/15(日) 15:37:34.88 ID:jMGc3997o
あれ、あれれ~?

その後の体験が衝撃的すぎて、すぐには思い出せない。



「えっと、艦娘を強くするのに恋心が有効っていうことで、提督が演技してて・・・」

んで、そのことをオレに誤りに来たんだよ、な・・・?

「半分~、というか、4分の1正解ってところかしら~?」

430: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:38:03.23 ID:jMGc3997o
提督がため息をもらす。

「あのなあ天龍、俺は確かにこういったぞ。演技していて、それで」



―だから鎮守府のエースである天龍、龍田、川内、神通には特別に好かれるように行動していた―


ええと、オレに好かれるためにってのが4分の1正解で。

提督が好かれようとしていたのがオレと、龍田、川内、神通の4人・・・。

431: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:38:37.33 ID:jMGc3997o
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。



「ええええええええええええええ!?」


「やっと分かったか」

「もう、天龍ちゃんうるさいわ~」

432: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:39:36.80 ID:jMGc3997o
つまり提督はオレだけじゃなくって。

「よ、4人と付き合うって・・・そういうことかぁ!?」

「ま、まあ、そうなるな」

「うふふ、みんな愛されてみんな幸せ。いいじゃない」


混乱するオレの頭の中で、思考がグルグルとループする。

433: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:40:05.23 ID:jMGc3997o
そうなのか?

そういうものなのか?

恋って、そういうものなのか!?



「いや、実際かなり特殊というか・・・普通ありえないぞ」


動揺するオレに提督のフォローが入る。

でも、提督もこの異常な状況にまだ戸惑っている様子だ。

434: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:40:47.18 ID:jMGc3997o
だとしたら、提督をけしかけたのは・・・。


「うふふ、だって誰か一人しか愛されないよりも、みんなが愛された方が良いじゃない」

「お前の仕業か、龍田!」



こいつしかいないだろう・・・。

ぶっ飛んでる奴だとは思っていたけれど、ここまでとは・・・。

435: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:41:40.01 ID:jMGc3997o
埠頭から鎮守府へと引き返す道のりで。

「それに、恋心が艦娘を強くするのなら・・・提督も堂々とハーレムが作れるわ~」

「ハーレムってお前・・・」

くすくす、と笑いながら龍田が続ける。



「だってこの人、誰を選べばいいんだとか俺には選べないとか。ウジウジ悩んでいるんですもの~」

「だから、選ばなくても良いようにしてあげたのよ~?」

自分の功績を誇るように語る龍田に、オレはもうかける言葉が見つからない。

436: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:42:32.56 ID:jMGc3997o
「こうなった以上、そうするしかあるまい」

歩きながらため息を付いて、提督が語る。


「俺の首が繋がるかどうかもかかっているからな」

「じゃあ明日、川内と神通も落として海域攻略、ってこと?」


なんだか面白くない。


437: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:43:48.40 ID:jMGc3997o
「そうだな、何だ、妬いてるのか?」

ちょっと前なら、焦って否定していた言葉。

でも今は、こうやって返すことが出来る。


「そうだよ、悪ぃか?」

面白くないから、こう返してやった。

439: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:45:05.38 ID:jMGc3997o
提督も龍田も一瞬、オレの返しにポカンとして。

「天龍も言うようになったなあ」

「あらあら~、天龍ちゃんが乙女になってる~!」

二人してきゃいきゃい騒ぎ出しやがった。
ああもう、うっとうしいったらないぜ。

440: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:46:47.15 ID:jMGc3997o
「あ!何だよ。オレが乙女だったら悪いってのか!?」

「あら、開き直ってる?」

「いや、天龍は乙女だぞ、なんたってさっき、自分のことをわた―」

「わぁぁぁあああああああああ!わあ、わああ!」



慌てて提督の暴露を遮るオレ。

何だよ、どう返しても結局おちょくられてるじゃねえか・・・。


「なになに~、気になるわぁ~」

「提督、ぜってー教えるなよな。言ったらぶっ殺すからな!」

441: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:49:01.98 ID:jMGc3997o
鎮守府に着くと、夜の哨戒組以外はみんな、消灯に向けて準備をしていた。

提督も、明日も早いからと早々に自室に戻っていく。


「じゃあな、天龍。今日はありがとう」

「ん・・・」



改めて言われると、なんだか照れくさくて、心がムズムズする。

けれど、この心の高揚は、なんだ。悪くない。

442: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:49:30.51 ID:jMGc3997o
去っていく提督の後ろ姿に、自然と声をかけていた。


「おい、提督!」


ピタリと、提督の足が止まる。


「お前のために、天龍さまが海域、攻略してやるからよ。見とけよな!?」



振り返りもせず、片手だけ上げて返事をして。

今度こそ提督は去っていった。

443: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:50:16.60 ID:jMGc3997o
天龍型の自室へと向かう道の途中で、オレは龍田に話しかける。


「にしても、まさか龍田が提督に惚れるなんてなあ」
「自分でもびっくりよ~?」


まさか天龍ちゃんと同じ人を好きになるなんて、と。

それにしても、気になる。

コイツと提督の間に一体何があったのか、聞いてみたい。

444: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:50:49.52 ID:jMGc3997o
「なあなあ、何で提督に惚れたんだ?何でくっつく気になった?」

「天龍ちゃんが今日提督と何があったのか教えてくれたら、教えてあげてもいいわ~?」



な、っとまたしても言葉に詰まるのはオレ。

好奇心半分、龍田を困らせてやりたくて聞いたのだけれど。

やっぱりオレにそういうのは向いてないらしい。

445: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 15:59:48.10 ID:jMGc3997o
・・・それにあんな恥ずかしいこと、例え龍田であろうとも話せる様なモンじゃないしな。

そうやって、すっかり問いただすことを諦めたオレに、龍田が一言。


「つまり、そういうことよ~?」

「え」

それはつまり、龍田の方も。

相棒に言えないほど、恥ずかしいってことなのか?



「なあなあ、どういうことだよ。気になるだろ!?」
「言わないわ~」

オレの邪推は、多分当たってると思う。だって。

心なしか、龍田の頬がちょっぴり、ほんのちょっぴりだけ、紅い気がするんだ。

446: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 16:00:21.15 ID:jMGc3997o
龍田もオレも、恋してるんだなあなんていうオレの甘い感傷。

それを台無しにするのは、もちろん隣の相棒で。


「ところで天龍ちゃん」

「なんだ?」

「私、今日は同じ部屋で寝ていいのかしら~?」



ん?

いつも一緒に寝てるくせに何を言うんだ?

447: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 16:00:59.16 ID:jMGc3997o
「だってほら、今日は天龍ちゃん、身体が火照って眠れないでしょう?」

「は!?」

「安心して声が出せるように、私今日は夕張さんの部屋に泊まろうかしら~?」



ななななな、なに言っているんだこいつは!?

448: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 16:01:25.20 ID:jMGc3997o
「よ、余計な気まわすんじゃない!いつもと一緒でいいよ!」

「あら~、そう?気が変わったらいつでも言ってね?」


いつでも出て行くから、と龍田。


「オ、オレはそんなことしねーよ!」

「そんなことって、どんなこと~?」

「~~~~~~~~~~~~~っ!」

449: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 16:01:52.22 ID:jMGc3997o
ああ、もう。


一つや二つ、恋をしたところで。

オレたちの日常の中で、変わらないものもあるんだなって。

馬鹿みたいだけれど、少しホっとしてしまう自分がいた。

450: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 16:02:28.83 ID:jMGc3997o
翌日、提督は川内、神通たちと朝からどこかへ出かけた。

夕方戻ってきた頃には、神通もどこか顔つきが落ち着いていたし、まあ上手くいったんだろう。


すれ違った時向こうがペコリと頭を下げてきて、オレがそれに答えて。

仲直りはこれでおしまい。

あいつらがどこまで提督のことを思っているのか―そこまでは分からないけれど。

451: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 16:02:56.45 ID:jMGc3997o
「天龍さん」
「ん、なんだ?」


「私、負けませんから」
「ああ」


オレもうかうかしちゃいられない様だ。

452: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 16:06:01.68 ID:jMGc3997o
決戦の日。

戦力はこれ以上ないくらいに揃っている。


提督が総出撃の指令を出したことから、オレを含め龍田、川内、神通のコンディションも最高だろう。



各艦娘が、それぞれ執務室に呼び出されて最後の指示を受ける。

「失礼するぜ」
「相変わらずノックをしない奴だ」


もう癖になっちまってるみたいだ。

でも良いだろ?

もうオレたちは恋人なんだからさ。

453: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 16:06:44.38 ID:jMGc3997o
指示を受け取るよりも先に、まず温もりを求めて。

オレは、何も言わずに提督に抱きついた。

提督もオレを黙って受け止める。



「おいおい、もう作戦中なんだぞ」

「じゃあ抱きしめなきゃいいだろ?」

「それが出来たらしてるさ」


へへ。
そう言って二人は見つめ合う。

454: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 16:07:13.15 ID:jMGc3997o
どちらともなく顔が近づいていって、唇が重なる。

「んっ・・・」


暖かい。

満たされていく自分を感じる。



今なら、どんな敵だって打ち倒せそうな気がした。

455: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 16:07:55.90 ID:jMGc3997o
「天龍、お前には水雷戦隊旗艦として、ボスまでの敵艦の掃討を任せる」

「おう、オレに任せときな」


川内と神通のために、ボスまでの道を切り開く。

重要な役割に気合いが入る。



名残惜しさを感じながら提督と離れて、出撃のために退出する間際。

オレはもうちょっとだけ、欲張ってみることにした。


456: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 16:08:36.64 ID:jMGc3997o
「これだけ頑張るんだからよ」

「ん、なんだ?」

「帰ってきたらご褒美、期待してるぜ?」


とびっきりの笑顔を、提督に向けて。
ちょっとだけのわがままを、言ってみる。


提督も、笑顔で答える。
オレの一番好きな顔で。


「任せておけ、この前のより凄いのをしてやる」

そんな言葉に、胸を弾ませながら執務室を出る。


457: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 16:10:26.66 ID:jMGc3997o
ああ。

オレは、この人のために、戦う。
オレは、この人の前でだけ。


『わたし』になる。


これが、オレの恋。
提督と、オレの恋。



「天龍、水雷戦隊。出撃するぜ!」





458: ◆VmgLZocIfs 2015/03/15(日) 16:24:46.13 ID:jMGc3997o
【自分語り】

当初提督視点で書き始めたのですが、天龍視点の方が良くないかと思い再スタート。
次は神通の視点で書こうかなあと思っています。

その前に筆休めとして、コメディタッチの作品にも挑戦したいです。
目標は今日中にスレ立てすることです。

天龍のカラっとした性格が好きで、爽やかな恋愛を書きたかったのですが。
全く逆の乙女な天龍に仕上がったかなと思います。
オレとかボクを一人称として使う子が女の子っぽさを意識する・させられる展開は自分で書いていても楽しかったです。

それでは、ここまで読んでくれた方がいましたら・・・ありがとうございました。














元スレ:https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425124375/